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ファンクラブ エピソード1

私はあの日以来、女性マネージャーを避けていた。会ってしまえばあの話になるのではないか。私は単純に怯えていたのだろう。


「あの話」というのは、自分の口から発したくない言葉の組み合わせ「NON STYLEが芸歴21年目・40歳でファンクラブを立ち上げる」のことである。


文字にしてみると、なんともおぞましい言葉の羅列だ。寒気がするのは私だけではないだろう。


私はそんなことを考えながら、レギュラー番組である「おかべろ」の楽屋で待機をしていた。何故かうっすら緊張している自分がいる。さすがに今日は逃れられないことを脳が察しているのだ。何故なら、この番組は今のところ100%の確率でマネージャーが現れているからだ。間違いなくあの話になる。一縷の望みがあるとすれば、井上があの話を断ってくれていることだけだ。




「石田さん、おはようございます」




あまりの気配0に声が出そうになったが、なんとか涼しい顔はキープ出来た。しかし、脊髄からの指令により起立してしまっている。まるで、タバコを吸っているところが見つかってしまった中学生のようだ。




「おはよう」



動じてない雰囲気を出すのに精一杯なのは言うまでもない。



「ファンクラブの件、井上さんに話したんですけど」



早い早い!待ってくれ心の準備が出来ていない。何をそんなに行き急いでいるんだ。一旦、熱いお茶でも飲もうではないか。



「まかせるわーって感じでした」



あの野郎!なにをしているんだ!NON STYLEの社長はおまえで、下請けがおれだろ?そこは社長が鉄壁のディフェンスでNON STYLEを守るのが筋というもんだろうが!信じた私がバカだったよ。



私は奥歯をギリギリ言わせながら腰を下ろした。さあ、どうしたものか。もうこの話が頓挫することは、どちらかが不祥事でも起こさない限りなさそうだ。




不祥事・・・井上の得意分野だ。頼む!今度こそ井上の見せ所だ!私は信じいてる。彼の軽率さを。




「とりあえずファンクラブサイトのデザインなんですけど、どうしますか?」



女性マネージャーが「至ってふつうフェイス」でこちらを見ている。今まで生きてきた中で最も難しいクエスチョンだ。なんだ?ファンクラブサイトのデザインとは?恐ろしい程ピンときていない。こんなにピンと来ないのは、井上のプリクラがやや流行ったこと以来だ。



「うーん、まあ重要やもんなぁ」


「ですねー」



重要なのか!なんとなく言ったことが正解でよかった。よし!このしったか戦法で切り抜けるしかない。



「人によって全然違うもんなー」


「違いますねー」




よしよし。逃げれている。しかし、このままでは話が進まない。私は勝負に出た。



「ちなみにどんな感じがいいと思う?」



全ゆだね大作戦だ。これで女性マネージャーが好きなデザインで着地するのが、おじさんふたりからしたら一番好ましい。女性マネージャーよ!我が強いタイプの社員であってくれ!!


「難しいですよねー。NON STYLEのイメージで言うとポップでフレッシュなデザインかなーって思うんですけど、年齢のことも考えたらシックな方がいい気もするんですよねー。私、個人的にはモダンな感じがすきですけど」



耳鳴りがする。なにを言っているのか内容がまったくわからない。こんなに内容がわからないのは井上のポジティブカレンダー以来だ。




「そやなー。ちょっと考えるわ」






出口がまったく見えない入り口に立ち尽くした私は、改めて井上の不祥事を願った。






つづく



NON STYLE 石田








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